
「どうやって進めたらいいかわからない。」
成年後見制度の手続きについて「面倒・不安」な気持ちで、この記事を読み始めたのではないでしょうか?
成年後見制度を利用するには、煩雑な手続きが必要で、かつ準備する書類も数多くあります。
本記事では、あなたが抱えている「面倒・不安」を少しでも軽減できるよう、わかりやすい言葉で手続きの流れや方法を説明したいと思います。
成年後見制度は認知症や知的障がいなどにより、判断能力を欠く人や不十分な人を法的に保護するため、支援してくれる人(成年後見人等)をつける制度になります。
法定後見の場合、申立ての準備から成年後見人として行動できるようになるまで、手続き期間として3~6ヶ月程度かかります。
手続き期間中は次のような本人に必要な法律行為ができないため、大変困ることになります。
- 預金の引き出し
- 不動産の売買契約
- 介護サービス契約
- 遺産分割協議など
手続き期間のうち裁判所の審査や決定に1~3ヶ月程度かかります。
ですので、速やかに準備を行い申立てをすることが、本人やご家族にとって非常に大切になります。
また、忙しくて手続きをすすめられない人や書類を書くのが苦手な人は、司法書士に手続きを依頼することを検討してみてもいいでしょう。
当メディアを運営している「グリーン司法書士法人」は、積極的に成年後見手続きのサポートを行っております。関西在住の方は以下のサイトから無料相談をご予約くださいませ。
目次
1章 成年後見制度には法定後見制度と任意後見制度がある
成年後見制度には以下の2つのタイプがあります。
「すでに判断能力が低下している人のための法定後見制度」
「いまは元気だけど将来的に判断能力が低下した場合に備えるための任意後見制度」
なお、既に判断能力が不十分な人は「法定後見制度」、まだまだ元気な人は「任意後見制度」のみ利用できます。まずは以下の図で成年後見制度の全体像を確認しましょう。
1-1 法定後見制度とは
法定後見制度は、本人の判断能力の程度や状況に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれています。
家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等(成年後見人、保佐人、補助人)は本人のため、必要に応じて本人の代わりに売買契約や介護サービス契約などの法律行為をしたり、本人が自分で法律行為を行うときに同意を与えたりすることによって、本人を支援します。
このような支援を財産管理や身上監護といい、財産管理は本人の財産を維持・管理することで、預貯金の管理や医療費の支払いなどを行うことです。
また、身上監護は本人が生活する上で必要になる、病院に関する手続きや介護保険に関する手続きを行うことをいい、食事のお手伝いなどの介助や介護を行うことは含みません。
1-2 任意後見制度とは
任意後見制度とは、元気なうちに将来自分の判断能力が不十分になったときに備えて、支援してもらう人(任意後見人)と支援してほしい内容を契約によって定めておく制度です。
このような契約を任意後見契約といい、任意後見契約は公証人役場で公正証書によって作成しておく必要があります。
任意後見制度は今元気な人が将来的に認知症になってしまったときに備えておくものなので、任意後見契約を締結しても、そのままの状態では何の効力も生じません。
本人の判断能力が低下し、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任されてはじめて任意後見契約の効力は生じます。任意後見監督人とは、その名のとおり任意後見人を監督する人で、多くの場合は司法書士や弁護士が選任されます。
1-3 成年後見人になれる(資格のある)人
成年後見人には、原則として誰でもなることができます。
家族や司法書士などが選ばれることが多いのですが、法律上、本人との関係性や特別な資格などはは必要とされていません。
あえて言うならば、認知症などになった本人のために財産管理を行うのが仕事なので、「成年後見の仕事を任せても問題ない」ことが資格となるといえるでしょう。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
それでは反対に、成年後見の仕事を任せて問題がある人は誰なのかを次の節で見ていきましょう。
1-4 成年後見人になれない人-5つの種類
成年後見人は、認知症など判断能力が落ちた方の「財産管理」をしなければならないので、その仕事を託すべきでない(資格がない)人の種類が法律で決まっています。
【成年後見人になれない人】
その1 未成年者
その2 後見人を解任されたことがある人
その3 破産中の人
その4 本人と裁判上争っている(争っていた)人とその家族
その5 行方不明で成年後見の仕事ができない人
(※民法847条の規定より)
広く資格が認められている成年後見人を、あえて問題があるかもしれない人から選ぶ理由がないため、法律により、資格のない人が決められています。
1-5 成年後見のメリット
判断力が低下した場合に後見人をつけるメリットは大きく3つあります。
メリット1 成年後見人が法律行為を代理できる
本人は、必要な法律行為を成年後見人に代理で行ってもらえます。たとえば、施設への入居契約やそれにともなう住居の売買契約など、認知症になった後は本人で行うことができません。これでは本人も家族も困ってしまうところ、成年後見人がいれば、代わりに行ってもらうことができます。
スーパーでの食品の購入などは、引き続き本人が行うこともできますので、すべての権限を失ってしまう訳でもありません。
メリット2 本人が行った契約を取り消すことができる
成年後見人は、日用品の購入を除いて、本人が行った契約を取り消すことができます。したがって、本人が不要に高額な買い物をしてしまっても、なかったことにできます。
メリット3 親族の使い込み防止ができます
本人の財産は、成年後見人の管理下に置かれるため、身近な親族が勝手に使ってしまうことを防止できます。
判断力低下による「不利益の排除」、これが成年後見のメリットと言えます。
1-6 成年後見のデメリット
本人にとって、成年後見のデメリットはほぼありません。
というのも、成年後見の制度が、前身の制度から100年以上かけて熟成された制度であるため、本人の保護としては申し分ない制度であるといえるからです。
しかし、あえて言うのであれば、2点挙げることができます。
デメリット1 申立の手間と後見人の負担
成年後見は、家庭裁判所に申し立て、その旨の審判を得る必要があります。後述しますが、財産の調査・目録作成や鑑定など、少なからぬ手間と費用がかかります。
また、必要がなくなったからといって、勝手に辞めることができません。職業で行っている司法書士などの専門家は別段、家族が無償で行う場合は、本人が亡くなるまで成年後見を続けなければならない負担が継続します。
デメリット2 成年後見の報酬が必要なことがある
成年後見は、家族が無償で後見人となるケースも多いですが、報酬が必要となる場合があります。
地域や本人の財産額によって異なりますが、月額2万円~6万円程度となることが多いです。任意後見の場合は契約で定めますが、3~7万円となることが多いです。
報酬は成年後見の対価ですので、デメリットとまでは言えないかもしれません。また、金銭的な負担ができない場合、各地方自治体によっては助成金がでることもあります。
成年後見におけるデメリットは、本人よりも成年後見人の負担が大きいことだと言えるでしょう。
2章 法定後見人の申立て手続きの流れと申立方法を知ろう
本章では法定後見人の申立てに必要な書類の準備から、法定後見人としての仕事を開始するまでの流れを手順別に詳しく説明します。
残念ながら本記事では保佐、補助の申立方法については説明しておりませんが、大まかな流れは同じなので、保佐や補助の申立てを検討されている人も参考にしていただければと思います。
なお保佐に関してはこちらの記事で詳しく解説しています。是非ご覧ください。
まずは以下の図で手続き全体の流れを知りましょう。
次に手順ごとに詳しく説明していきたいと思います。
2-1 STEP① 申立人、申立て先の確認
はじめに裁判所へ申立てができる人と、申立てをする家庭裁判所の場所を確認しておきましょう。
申立てをする家庭裁判所は本人の住所地から一番近い家庭裁判所になることが多いですが、念のため裁判所HPで管轄の家庭裁判所を確認しておきましょう。
裁判所HPはこちら
2-2 STEP② 診断書の取得
申立てに必要な書類の準備を始めるにあたり、まずは医師に診断書を書いてもらいます。
なぜなら、法定後見制度は「後見・保佐・補助」と判断能力の程度に応じて、3つの類型にわかれているため、本人にとってどの程度の支援が必要なのか、診断書をもとに判断する必要があるからです。
診断書は特に精神科医に作成してもらう必要はありません。かかりつけ医や近隣の内科、精神科のある病院に作成を依頼しましょう。
2-3 STEP③ 必要書類の収集
次に診断書以外の必要書類を集めていきます。
まずは、申立てに必要な書類の一覧表で、どのようなものを準備しなければならないのか確認してください。
次にそれぞれの必要書類について説明いたします。
2-3-1 【戸籍謄本】
戸籍謄本とは身分事項を証明するもので、本籍地や家族関係について記載されています。
詳しくは以下のとおりになります。
本人と後見人候補者が同一の戸籍であるときは、2人が記載されているものを1通取得すればOKです。
2-3-2 【住民票】
住民票とは住所や世帯を証明するもので、住所地や同一世帯の家族について記載されています。
本人と後見人候補者が同一の世帯であるときは、2人が記載されているものを1通取得すればOKです。
2-3-3 【後見登記されていないことの証明書】
後見登記されていないことの証明書とは、現時点で成年後見制度を利用していないことを証明するもので、氏名や生年月日、住所が記載されています。
郵送の場合は「東京法務局 後見登録課」しか受け付けてくれないので、東京法務局へ郵送請求する必要があります。
なお、法務局の支局や出張所では取得できないので注意しましょう。
より詳しく知りたいときは、以下の法務局HPをご覧ください。
東京法務局HPはこちら
(戸籍謄本の原本と戸籍謄本のコピーを一緒に提出すれば、原本は返却してもらえます。)
2-4 STEP④ 申立書類の作成
ここでは成年後見人の申立て手続きのなかで、核となる申立書類の作成方法について説明いたします。
作成の手順は以下のとおりになります。
- 申立書類を手に入れよう
- 本人に関する資料を準備しよう
- 申立書類に必要な事項を記入しよう
- 収入印紙や郵便切手を準備しよう
まずは申立書類とは、どのような書類なのか確認しましょう。
また、記入例を準備していますので、書類作成時の参考にしてください。
【申立書類一覧】
①申立書(記入例)
②申立事情説明書(記入例)
③親族関係図(記入例)
④財産目録(記入例)
⑤収支状況報告書(記入例)
⑥後見人候補者事情説明書(記入例)
⑦親族の同意書(記入例)
※書類の名称や様式は各家庭裁判所によって若干異なります。
2-4-1 申立書類を手に入れよう
申立書類は家庭裁判所ごとに様式が違うので、申立て先の家庭裁判所で申立書類一式を取得してください。
取得方法は以下の3種類になります。
- 家庭裁判所HPからダウンロード
- 家庭裁判所の窓口で受け取る
- 家庭裁判所から郵送してもらう(具体的な方法は各家庭裁判所の後見係に確認してください。)
ネット環境があれば一番簡単に取得できます。
主な家庭裁判所のHPは以下のとおりです。
上記以外の管轄の場合は「◯◯家庭裁判所 後見申立て」と検索し、申立て先の家庭裁判所HPからダウンロードしてください。
2-4-2 本人に関する資料を準備しよう
申立書類に必要な事項を記入したら、次に本人に関する資料を準備します。
本人に関する資料は本人の健康状態、財産、収支を証明するために申立書類と合わせて提出する書類です。
本人の健康状態や保有している財産について該当するものを準備しましょう。
具体的な内容は以下のとおりになります。
こちらの資料はすべての方に該当するものなので、本人に応じた書類を準備しましょう。
【本人に関する資料①】
こちらの資料はすべての方に該当するものなので、本人に応じた書類を準備しましょう
【本人に関する資料②】
こちらの資料は本人が保有する財産の種類や負債の有無に応じて、該当するものを準備しましょう。
【本人に関する資料を準備するときの5つのポイント】
①本人に関する資料のうち「不動産についての資料」は原本の提出が必要。
②その他の資料については、A4サイズのコピーで提出すればOK。
③通帳は表紙、見開き1ページ目、過去1年分の記載部分(普通預金欄、定期預金欄)をコピーしよう。
④コピーは拡大、縮小する必要はなく、原寸大でOK。
⑤マイナンバーの記載がある書類は、その部分を隠してコピーしよう。
2-4-3 申立書類に必要な事項を記入しよう
申立書類を取得したら、手書きまたはパソコンで入力する方法により作成しましょう。
基本的に書類内にある指示どおりに記入すれば大丈夫です。
先程見ていただいた記入例を参考にして、書類作成をすすめましょう。
2-4-4 収入印紙や郵便切手を準備しよう
最後に申立てに必要な収入印紙や郵便切手を準備しましょう。
収入印紙や郵便切手は最寄りの郵便局や家庭裁判所内の売店で購入することができます。
必要な収入印紙等は以下の3点になります。
- 申立費用(貼用収入印紙) 800円
- 郵便切手(予納郵便切手) 約3200~3500円程度(内訳の指定あり)
- 登記費用(予納収入印紙) 2600円
なお、②の郵便切手については各家庭裁判所によって若干異なるので、管轄の家庭裁判所に聞くか、HPで確認しましょう。
また、①については申立書に貼付け、②③については封筒などに入れて、申立書類と一緒に家庭裁判所へ提出します。
2-5 STEP⑤ 面接日の予約
申立て後に申立人や成年後見人候補者から詳しい事情を聞くため、家庭裁判所で面接が行われます。
面接の予約は裁判所の繁忙によって2週間から1ヶ月程度先しか、予約が取れないことがあるので、書類準備の目処がついたら、先に予約を取っておきましょう。
ただし、予約した面接日の1週間前までには、申立書類一式を家庭裁判所へ提出する必要があるので、余裕をもって予約するようにしましょう。
2-6 STEP⑥ 家庭裁判所への申立て
申立書類と必要書類が準備できれば、家庭裁判所へ申立書類一式を提出します。
提出方法は家庭裁判所へ持参する方法と郵送する方法があります。
申立て後は、家庭裁判所の許可がなければ
申立ての取り下げはできません。
例えば申立人が指定していた後見人候補者が後見人として選ばれなかった場合など、そのような不満を理由に取り下げの申請をしても許可が出されることはないため、結果として申立人や親族の意向に関係なく、裁判所が選んだ司法書士や弁護士が後見人となります。
2-7 STEP⑦ 審理開始
申立ての受付後、家庭裁判所で審理が始まります。
審理とは裁判官が申立書類を審査し、過不足がないか確認したうえで、本人の状況や本人を取り巻く様々な事情を総合的に考慮することをいいます。
審理の期間は、個々の事案や裁判所の繁忙にもよりますが、申立てから審判まで1ヶ月から3ヶ月程度かかります。
STEP⑦-② 申立人、後見人候補者との面接
申立人や後見人候補者から、申立てに至った事情や、本人の状況を聞くために面接が行われます。
以下、面接についての要点をまとめていますのでご確認ください。
【面接される人】
申立人、成年後見人候補者
【面接する人】
参与員(裁判所が指定した非常勤の裁判所職員)
【面接場所】
申立てをした家庭裁判所
【面接日時】
指定された日時(平日のみ)所要時間は1~2時間程度。
【主に聞かれること】
申立てに至る事情、本人の生活状況、判断能力、財産状況、親族らの意向など
【持参物】
本人確認書類(免許証等)、申立書に押した印鑑、預金通帳などの財産を証明する書類の原本、申立書類一式のコピーなど
STEP⑦-③ 本人との面接
裁判官が本人から直接意見を聞いたほうがいいと判断したときは、本人の面接が行われます。
この本人の面接は原則、家庭裁判所で行われますが、入院や体調不良などの事情で外出することが困難な場合は、家庭裁判所の担当者が入院先などへ訪問してくれます。
なお、診断書の内容から本人の判断能力が全くないと判定できる場合など、この手続が省略されることもあります。
STEP⑦-④ 親族への意向照会
裁判官の判断で本人の親族に対し、後見申立てや後見人候補者について親族の意向を確認することを親族への意向照会といいます。
申立ての際に親族全員から同意書が提出されている場合、この手続が省略されることもあります。
仮に、申立人や後見人候補者から親族への意向照会をしないで欲しいという要望があっても、裁判官が必要と判断すれば意向照会が実施されることとなります。
また、この意向照会において親族から反発が出れば、申立ての際に指定している後見人候補者が選ばれない可能性が高くなります。
STEP⑦-⑤ 医師による鑑定
申立て時に提出した診断書や親族からの情報だけでは、裁判所として本人の判断能力を判定できない場合に、より詳細に医学的な判定をしてもらうことを鑑定といいます。
通常、鑑定は本人の病状を把握している主治医へ依頼されますが、主治医が引き受けてくれない場合など、事情によっては主治医以外の医師へ依頼することもあります。
なお、診断書の内容や親族からの情報などを考慮して、本人の判断能力の程度が明確になっていると裁判所が判断すれば、鑑定が省略されることもあります。
2-8 STEP⑧ 審判
裁判官が調査結果や提出資料にもとづいて判断を決定する手続きを審判といいます。
成年後見の申立てにおいては、「後見の開始の審判」を行うのと同時に最も適任と思われる人を「成年後見人に選任」します。
場合によっては、成年後見人を監督・指導する成年後見監督人が選任されることもあります。審判の内容を書面化した審判書は成年後見人に送付されます。審判書が成年後見人に届いてから2週間以内に、不服の申立てがされなければ、後見開始の審判の効力が確定します。
審判の内容に不服がある場合、申立人や利害関係人は審判の確定前のみ、即時抗告という不服の申立てをすることができます。
2-9 STEP⑨ 後見の登記
審判が確定すれば審判の内容を登記してもらうため、裁判所から東京法務局に登記の依頼がされます。この登記は後見登記と呼ばれており、後見人の氏名や後見人の権限などが記載されています。
後見登記は裁判所が依頼してから2週間程度で完了し、完了後に後見人へ登記番号が通知されるので、通知された登記番号をもとに法務局で登記事項証明書を取得しましょう。
この登記事項証明書は本人の財産の調査や預金口座の解約など、後見人の仕事として行う様々な手続きの際に後見人の権限を証明するため必要になります。
登記事項証明書の取得については以下のとおりになります。
【請求できる人】
本人、本人の配偶者、本人の4親等内の親族、本人の後見人など
【窓口での取得】
最寄りの法務局の本局(支局や出張所では取得できません。)
【郵送での取得】
東京法務局の後見登録課
【発行手数料】
1通 550円
法務局HP:登記事項証明書の取得方法
法務局HP:登記事項証明書の見本
2-10 STEP⑩ 成年後見人の仕事開始
成年後見人に選任されたら、まずは本人の財産を調べて、財産の一覧表を作成する必要があります。
この財産の一覧表を「財産目録」といいます。財産目録は審判が確定してから、1ヶ月以内に裁判所に提出しなければなりません。
その他にも金融機関や役所への届出など、成年後見人として様々な仕事を行う必要があります。
3章 任意後見の手続きの流れと利用方法を知ろう
任意後見とは、元気なうちに将来自分の判断能力が低下したときに備えて、どのように財産を管理処分してほしいか、どのような施設に入所したいかなど、後見事務の方針や方法を決定しておき、後見人になって欲しい人と事前に契約しておく制度になります。
要するに「将来認知症になって判断能力が不十分になったらどうしよう。」と不安を感じている人が、今のうちに備えておこうと考えた際に利用できるのが、この任意後見制度になります。
まずは任意後見の手続き全体の流れと手順を確認しておきましょう。
3-1 STEP①将来自分を支援してくれる人を決定
まずは、将来自分を支援してくれる人を決めます。このような人を「任意後見受任者」といいます。
任意後見受任者は将来自分の判断能力が衰えてきた際に任意後見人として、自分を支援してくれる人となるので、信頼できる人に依頼することが大切です。
原則として任意後見受任者は自由に選ぶことができるので家族や親戚といった周囲の人の他に、司法書士や弁護士といった専門家に依頼することもできます。
3-2 STEP②契約内容を決定
任意後見受任者が決まれば、次に支援して欲しい内容を決めます。
自分の判断能力が低下した場合に、何を、どのように支援してもらいたいのかを、あなたのライフプラン沿って決めることになります。
例えば、一人で生活することが難しくなったときに
「在宅でケアを受けたい」
「どのような施設でケアを受けたい」
「病気になったときは◯◯病院にお世話になりたい」
など、自身の希望をもとに支援してもらう内容を決めましょう。
決めていただく内容は以下のようなことになります。
【任意後見契約で決めること】
- 任意後見開始後の介護や生活について
- 金銭の使い方や不動産の活用方法など、財産の使用および利用方法について
- 任意後見人の報酬や経費について
- 任意後見人に委任する事務(代理権)の範囲について
3-3 STEP③任意後見契約の締結および公正証書の作成
本人の希望をもとに支援の内容を決めたら、契約内容をまとめた原案を公証人役場に持ち込み、公正証書を作成してもらいます。
任意後見契約は法律において公正証書で作成することが決められています。
公正証書は公証人役場という法務省に属する役所で作られる公文書で、高い証明力を持つものです。
以下の全国にある公証人役場一覧から最寄りの役場を探しましょう。
最寄りの役場を確認したら、次に以下の手順で公正証書を作成してもらいます。
【公正証書の作成手順】
【STEP①】
公証人役場にまとめた原案と必要な資料を提出し、チェックしてもらう。
【STEP②】
公正証書の作成場所と作成日時の予約をする。
※体力的な問題などで、公証人役場に行くことができない場合は病院や自宅まで来てもらうこともできます。
【STEP③】
委任者である本人と任意後見受任者が公証人の面前で契約内容を確認し、契約書に署名押印する。
公正証書の作成に必要な資料と費用は以下のとおりになります。
【必要な資料】
・任意後見契約と代理権の範囲の原案
・本人の戸籍謄本、住民票、実印、印鑑証明書
・任意後見受任者の実印、印鑑証明書
※各書類は発行から3ヶ月以内のもの
【公証人へ支払う費用】
・基本手数料 11000円
・登記嘱託手数料 1400円
・収入印紙代 2600円
合計15000円
※契約の内容によって費用は増減します。
※公証人の出張が必要な場合は別途日当が加算されます。
公証人に作成してもらう公正証書は以下のようなものになります。
【任意後見契約公正証書】
上記の任意後見契約書に付随して作成されるのが、次の代理権目録になります。
代理権目録とは、本人が希望する支援内容に必要な代理権限の範囲を一覧にしたものです。
【代理権目録】
3-4 STEP④公証人から法務局への登記依頼
任意後見契約が締結されると、公証人が法務局に登記の依頼をします。法務局に登記されることで、任意後見契約の内容(任意後見受任者の氏名や代理権限の範囲など)を公的に証明することができます。
公証人の依頼から2~3週間で登記が完了し、この登記された内容を書面化したものを「登記事項証明書」といいます。
すぐにこの登記事項証明書が必要になることはないですが、内容を確認しておきたい方は最寄りの法務局の本局で取得してみてもいいでしょう。
3-5 STEP⑤任意後見監督人選任の申立て
本人の判断能力が不十分になれば、家庭裁判所へ任意後見監督人を選任してもらうための申立てを行います。任意後見契約は家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから、契約の効力が生じることになります。
任意後見監督人とは、判断能力が低下・喪失している本人に代わって、任意後見人となった人が契約どおり適切に後見事務を行っているか監督する人で、家庭裁判所が職権で選任します。任意後見監督人には、司法書士や弁護士が選任されることが多く、任意後見監督人に対する報酬は家庭裁判所が決定し、本人の財産の中から支払われます。
それでは任意後見監督人選任の申立て方法について詳しくみていきましょう。
なお、2章で説明している法定後見人の申立ての手続きと共通する部分は、一部省略しています。
詳細について気になるところがあれば2章でご確認ください。
手続きの流れは次のとおりとなります。
【任意後見監督人選任の申立ての流れ】
STEP① 申立て権限のある人と申立て先を確認しよう。
STEP② 必要書類の収集
STEP③ 申立書類の作成と印紙や切手の準備
STEP④ 家庭裁判所へ申立書類一式を提出
まずは申立てできる人と申立て先を確認しましょう。
申立てをする家庭裁判所は本人の住所地から一番近い家庭裁判所になることが多いですが、念のため以下の裁判所HPで管轄の家庭裁判所を確認しておきましょう。
裁判所HPはこちら
次に必要な書類を収集します。
まずは、申立てに必要な書類と費用を一覧表で確認しましょう。
一覧表の「本人に関する資料」の詳細は次のような書類です。
【本人に関する資料①】
こちらの資料はすべての方に該当するものなので、本人に応じた書類を準備しましょう。
【本人に関する資料②】
こちらの資料は本人が保有する財産の種類や負債の有無に応じて、該当するものを準備しましょう。
資料を準備するときのポイントは以下のとおりになります。
【本人に関する資料を準備するときの5つのポイント】
①本人に関する資料のうち「不動産についての資料」は原本の提出が必要。
②その他の資料については、A4サイズのコピーで提出すればOK。
③通帳は表紙、見開き1ページ目、過去1年分の記載部分(普通預金欄、定期預金欄)をコピーしよう。
④コピーは拡大、縮小する必要はなく、原寸大でOK。
⑤マイナンバーの記載がある書類は、その部分を隠してコピーしよう。
必要な書類が準備できれば、次に申立書類を作成します。
記入例を準備していますので、書類作成時の参考にしてください。
【申立書類一覧】
①申立書(記入例)
②本人の事情説明書(記入例)
③親族関係図(記入例)
④財産目録(記入例)
⑤収支状況報告書(記入例)
⑥任意後見受任者の事情説明書(記入例)
申立書類を作成したら、準備した必要書類、印紙・郵券と一緒に家庭裁判所へ提出しましょう。
提出方法は家庭裁判所へ持参する方法と郵送する方法があります。
3-6 STEP⑥任意後見監督人の選任
家庭裁判所が本人の状況や任意後見受任者の事情などをふまえて審理し、職権で任意後見監督人を選任します。任意後見監督人は任意後見人が適正に事務を行っているのか監督し、定期的に家庭裁判所へ報告を行います。審理の結果は家庭裁判所から書面で任意後見人に郵送されます。
選任された任意後見監督人の情報や任意後見が開始したことについて、登記してもらうため家庭裁判所が法務局に依頼します。
3-7 STEP⑦任意後見人の仕事開始
任意後見監督人が選任されると、いよいよ任意後見人の仕事がはじまります。
任意後見人として、財産目録を作成したり、金融機関や役所への届出など様々な仕事を行う必要があります。
4章 成年後見人を専門家に頼んだ場合の費用
親族間に争いがあるときは、公平性を保つために法律の専門家が後見人になることが多いです。専門家に頼んだ場合は、職業として業務を行いますので費用がかかってきます。
そのなかで、よく成年後見人として選ばれるのは司法書士や弁護士ですが、裁判所で定めた基準で報酬額が決められますので、司法書士と弁護士で成年後見人の費用の違いはほとんどありません。
成年後見人に支払う費用は、「基本報酬」と「付加報酬」の大きく2つに分けられます。
【基本報酬】
日常的な現預金の出納など、通常の後見業務に対してかかってくる費用です。管理する財産の額によって月額の目安が決まっています。
【付加報酬】
不動産の売却や遺産分割など、特別の後見業務に対してかかってくる費用です。こちらは特別な後見業務があった都度発生します。案件によって業務量が大きく異なるので、それに対応して費用も大きく変わってきます。
家庭裁判所が費用の目安として公開している算定表は次のとおりです。
ポイント1:資産の額が大きいと費用が増える。
ポイント2:複雑な業務ほど費用が高くなる。
5章 成年後見以外の制度との違い
成年後見と同様に、認知症に備えた財産管理の制度として「家族信託」という制度があります。
家族信託という制度は、認知症になる前に家族と信託契約を行い、自分の財産を自ら託す制度です。
家族信託は契約で内容を柔軟に決められる特徴がある一方、認知症を発症してしまうと、契約ができなくなりますので、すでに認知症を発症しているという場合は、成年後見しか選択肢がありません。
どちらにも一長一短があり、状況に応じて使い分け、または併用するのが得策です。
まとめ
成年後見制度には、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つのタイプがあります。
次の基準に応じて制度の利用を検討することになります。
「法定後見制度」・・・すでに判断能力が低下している人
「任意後見制度」・・・いまは元気だけど将来的に判断能力が低下した場合に備えたい人
いずれの制度も利用をするには煩雑な手続きが必要で、かつ準備する書類も数多くあり、手続きにはある程度の時間がかかります。
あなたやご家族にとっては、できるだけ速やかに書類の準備を行うことが大切になるので、本記事を参考にすすめていただければ幸いです。
また、忙しくて手続きをすすめられない人や書類を書くのが苦手な人は、司法書士や弁護士に手続きを依頼することを検討してみてもいいでしょう。
当メディアを運営している「グリーン司法書士法人」は、積極的に成年後見手続きのサポートを行っております。関西在住の方は以下のサイトから無料相談をご予約くださいませ。