
相続の借金問題は予期せずに降りかかってくるものです。
親が亡くなって遺品を整理していたら古い借用書や督促状が見つかった。
死後しばらくしてから金融機関に家族や親族の借金を請求された。
あるいはこれ以外のケースで借金が発覚することも多々あるでしょう。
いきなりの家族や親族の借金に驚き、慌てているのではないでしょうか。
そして、このような場合にはどう対処したら良いのか、家族や親族とはいえ他人の借金を支払う義務はあるのか、なんとか相続した借金を逃れる方法はないのか、などいろいろと考えているのではないでしょうか。
そこで今回は、相続の借金問題の対処方法について、司法書士の私がわかりやすく解説します。
借金の相続については、あせらずに現状を把握して、どのような法的手段をとるかを検討して行く必要があります。
専門家が行う手順・方法を丁寧に解説しますので、ぜひとも参考にしてください。
長めの記事になりますが、相続してしまった借金に正しく対処する方法を学び、借金を発見するまでの日常を取り戻しましょう。
目次
1章 突然降りかかる家族や親族の借金
家族や親族の借金問題は、前ぶれもなくふりかかります。
この記事を読まれている多くの方も、亡くなった親・配偶者・兄弟などが借金をしているとは思いもしなかったのではないでしょうか。
借金の存在を打ち明けてくれずに亡くなったことに憤りを感じる人もいるでしょう。
しかし家族や親族の借金問題は、冒頭に記載している通り、あせらずに現状を把握しなければ解決できないものです。
以降で1つずつ解説していきますので、借金問題の解決に努めていきましょう。
1-1 借金の請求は死後どれくらいでくるのか
直接故人宛に請求される借金は、一般的に死後1ヶ月前後で判明することが多いです。長くても2ヶ月を見積もれば十分でしょう。
なぜなら、収入を得る周期に合わせて、返済を月に1回と定めている債権者が多いからです。
返済のないことに気付いた債権者は比較的すぐに連絡や督促を開始します。
ただし、故人名義の口座から引落しになっている借金や、死亡したときに既に長期間滞納状態になっている借金については、遅れて請求書が届くことがあるので、油断はしないようにしましょう。
1-2 借金はどのような形で請求されるのか
借金をしている相手次第で請求方法は異なります。
1つずつ見ていきましょう。
1-2-1 消費者金融・クレジット会社・金融機関から借りている場合
最初は故人が登録していた携帯電話に連絡が来ることが多いでしょう。
そしてその数日後から数週間後に、郵送で督促状が届きます。
電話に出たり、故人の郵便物を開封することはためらわれると思いますが、対応するようにしましょう。
ただし、電話に出る場合は、借金の存在を認めたり借金を支払うと申し出たりすることは厳禁です。
なぜなら、時効という制度のおかげで古い借金は支払う必要がないことが多いですが、借金の存在を認めたり借金を支払うと申し出たりすると、時効という制度を利用できなくなることがあるからです。
1-2-2 公共料金・保険料・通信費・その他各契約の支払がある場合
これも消費者金融・クレジット会社・金融機関から借りている場合とほぼ同様です。
電話連絡がなく、いきなり郵便で問合せがあることもありますが、同じように対応してください。
1-2-3 友人・知人から借りている場合
このケースでは、友人・知人次第で完全に変わってきます。
電話だけでなく、LINEアプリやメールといった場合もあります。
ご年配の方だと郵送でといったこともあるでしょう。
1-2-4 家族や親族から相続放棄したという連絡がある場合
「相続放棄」とは、簡単に言うと下記のような制度です。
①故人のプラスの財産も、借金などのマイナスの財産も、一切を放棄し、
②相続人という地位から完全に外れる制度
家族や親族から相続放棄をしたという連絡がある場合、直接借金を請求されるというわけではありませんが、借金の存在に気付くきっかけとなりやすいものです。
なぜなら、相続放棄をするほとんどのケースが、借金から逃れることを目的としているからです。
このような連絡があった場合は、連絡してくれた人に相続放棄をした事情を確認するようにしましょう。
なお、家族や親族が相続放棄をすると、借金が回ってくることがあります。詳細は次章で解説しています。
1-3 故人に借金があるか調べる方法
借金の請求があれば借金の存在に気付くことができますが、それでも借金の一部に気付かないということもあるでしょう。
最初にお伝えしたとおり、相続の借金問題は現状を把握することが大切です。
下記を参考にして、可能な限り調査を行いましょう。
1-3-1 遺品を調べる
まずは故人の遺品を確認しましょう。
郵便物や借用書だけでなく、通帳の記載も大きな手がかりとなりますので、最低限ここまでは調べるべきです。
1-3-2 指定信用情報機関に照会する
消費者金融・クレジット会社・金融機関に対する借金である場合は、相続人が指定信用情報機関(いわゆるブラックリストと呼ばれているもの)の情報を取り寄せると、借金の有無が判明することがあります。
指定信用情報機関を運営する団体は3種類あります。
・株式会社シー・アイ・シー(略称:CIC)
https://www.cic.co.jp/index.html
・株式会社日本信用情報機構(略称:JICC)
https://www.jicc.co.jp/index.html
・一般社団法人全国銀行協会(全国銀行個人信用情報センター)
https://www.zenginkyo.or.jp/pcic/
各HPに情報の取り寄せ方が記載されていますので、ご確認ください。
1-3-3 友人・知人に対する借金が疑われる場合はこちらから連絡を取る
友人・知人からの借金は、遺品などからは判明しないことが多々あります。
このような場合には、友人・知人に直接確認する他ないでしょう。
ただし、信頼できない友人・知人に確認する際に、「故人に返済していない借金がありませんか?」と直接的に確認するのは危険です。
なぜなら、借金の存在をでっちあげて相続人から金銭を請求しようと考える人もいるからです。
このような友人・知人には亡くなったことのみを伝えるようにしましょう。
そして、借金の返済を求められたときには、借用書の提示を受けるなどの証拠を要求するようにしましょう。
2章 故人の借金を相続する範囲を知ろう
次に、故人の借金を相続する人を確認していきましょう。
家族や親族の借金を発見しても、自分に影響がないのであれば慌てる必要もありません。
2-1 家族構成によって借金を相続する人が法律上決まっている
家族や親族の借金を相続する人・相続する割合は、配偶者のあるなしで原則的に下記の通り定まっています。(※ただし、相続放棄をした人がいると異なることがあります。詳細は次項で解説します。)
【配偶者の有無による相続割合図】
①配偶者がいる場合(続柄は故人から見た関係を記載しています。)
②配偶者がいない場合(続柄は故人から見た関係を記載しています。)
具体例として、故人が3000万円の借金を残したケースを見て行きましょう。
(1)妻・子2人がいる場合
妻は1500万円、子2人はそれぞれ750万円の借金を相続
(2)子・孫はいないが、妻・両親がいる場合
妻は2000万円、両親2人はそれぞれ500万円の借金を相続
(3)子・孫や両親・祖父母はいないが、妻、兄弟3人がいる場合
妻は2250万円、兄弟3人はそれぞれ250万円の借金を相続
(4)子・孫も両親・祖父母も兄弟姉妹・おいめいもいないが、妻がいる場合
妻は3000万円の借金を相続
(5)子2人がいる場合
子2人はそれぞれ1500万円の借金を相続
(6)子・孫はいないが、両親がいる場合
両親2人はそれぞれ1500万円の借金を相続
(7)子・孫や両親・祖父母はいないが、兄弟3人がいる場合
兄弟3人はそれぞれ1000万円の借金を相続
(1)から(7)にあてはまらない複雑な家系の方もいらっしゃると思います。
その場合は、こちらの記事で相続割合を参照してみてください。
以上を参考にして、自分自身が借金を相続する場合に該当するかどうか確かめてみましょう。
ただし、次に説明する「相続放棄」といった制度のために、本来借金を相続する立場でないにもかかわらず、借金が降りかかってくることがありますので、その点については気をつけるべきです。
2-2 家族や親族の相続放棄によっていきなり借金がふりかかることがある
「相続放棄」には、1章でお伝えしたとおり、下記のような効果があります。
①故人のプラスの財産も、借金などのマイナスの財産も、一切引き継がず、
②相続人という地位から完全に外れる効果
この相続放棄の②の効果によって、本来借金を相続する立場になかったにもかかわらず、いきなり借金を相続してしまうことがあるのです。
例えば、下記の家系で、Aさんが借金を残して死亡した場合を考えて見ましょう。
この場合、当初の相続人である子が相続放棄することによって借金は両親に移転し、さらに両親が相続放棄をすることによって借金は兄弟姉妹に移転します。
なぜなら、相続放棄をした人は、相続手続き上は存在しないものとして扱われるからです。
最初は借金を相続していなくても、家族や親族の相続放棄によって借金が回ってくることがあることは覚えておきましょう。
3章 借金を相続したことがわかったら「相続放棄」の手続を検討する
借金を相続したことがわかったらまずは相続したプラスの財産(預貯金・不動産・株式など)とマイナスの財産(借金など)を整理しましょう。
簡単でもよいので、エクセルなどで表を作成するのもひとつの方法です。
そして、プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いかによって相続放棄などの手続を検討することとなります。
3-1 マイナスの財産の方が多い場合は相続放棄を検討すべき
相続したプラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合は相続放棄の手続を検討しましょう。
相続放棄をすることで、借金から逃れることが可能です。
ただし、相続放棄には知っておくべき大切なポイントがたくさんあります。
相続放棄をしよう!と決め付ける前に、一通りはこの記事に目を通してください。
では、1つずつ見て行きましょう。
ポイント① ~借金の相続放棄は家庭裁判所に手続する必要がある~
借金を相続放棄するためには、家庭裁判所に対して相続放棄の手続を行う必要があります。
相続人間で話合いをして借金を負担しないと取り決めても、法律上は借金から逃れることができませんので気をつけましょう。
裁判所に対して行う相続放棄の手続の流れの概略は、下図の通りです。
相続放棄の手続に絞った詳細な解説は別記事で行っておりますので、こちらの記事もご参照下さい。
ポイント② ~相続放棄の期限は3ヶ月と短い~
相続放棄は、相続があったことを知ってから3ヶ月以内に、書面を裁判所に提出する必要があります。
相続放棄の手続は面倒なものですが、期限切れにならないよう、速やかに手続を行うようにしましょう。
なお、一度相続放棄の手続を行うと、原則的に相続放棄を撤回することはできません。
プラスの財産やマイナスの財産の調査が3ヶ月では終わらない!という方は、勢いで相続放棄の手続きを行わないようにしましょう。
相続放棄の期限を延ばす手続きも法律上設けられています。
詳細は、こちらの記事の3章をご確認下さい。
また、借金に気付いた時にはすでに3か月が過ぎてしまっていた・・・という方もいると思います。
そういったケースは次章で対策を詳しく説明しますので、こちらをクリックください。
ポイント③ ~マイナスの財産だけを相続放棄することはできない~
相続放棄を行うと、マイナスの財産だけでなく、プラスの財産も全て相続放棄しなければなりません。
ただし、生命保険に関しては、契約内容次第で受け取れる場合と受け取れない場合があります。
詳細はこちらの記事をご確認下さい。
ポイント④ ~故人の財産に手をつけると相続放棄が認められないおそれがある~
亡くなった人が残した財産に手を付けてしまうと相続放棄が認められない場合があります。
なぜなら、相続放棄(プラスの財産・マイナスの財産とも受け取らないという手続)と亡くなった人の財産に手を付けるという行為は矛盾するからです。
「財産に手をつけた」と評価するかどうかは最終的には裁判所の判断となりますが、故人の財産を処分する前には司法書士や弁護士に相談することをお勧めします。
この問題に関しては、こちらの記事の2章で詳細に解説していますので、気になる方はぜひご確認下さい。
ポイント⑤ ~相続放棄をしても故人の保証人の地位から外れることはできない~
故人が第三者の保証人になっている場合、相続放棄をすることによって、保証人の地位を承継せずに済みます。
なぜなら、相続放棄は相続人から完全に外れる制度であるため、保証人の地位も相続から外れることになるからです。
例えば下のイラストのケースでは、Aさんが資金不足になって金融機関が保証人に返済を請求するようなことになっても、子は相続放棄をしておくことで保証人としての責任を負う必要はありません。
その一方で、故人の借金について相続人が保証していた場合、相続放棄が認められても保証人から外れることはできません。
なぜなら、被相続人の借金を相続するということ(相続人であるという立場)と、被相続人の借金を保証するということ(保証人であるという立場)は、全く別物であるからです。
残念ながらこのような場合は、裁判所に相続放棄が認められても、保証人としての借金を負担しなければならないということになります。
例えば、親の借金の保証人に子がなっている場合、相続放棄によって、親の相続人という立場から外れることはできますが、保証人という立場から外れることはできないのです(つまり、保証人としての責任は残ることになります。)。
保証人としての責任を逃れるためには、自己破産手続や個人再生手続などの債務整理手続を行うことが一般的です。
相続手続・債務整理手続をどちらも専門に扱っている事務所に相談するようにしましょう。
なお、本サイトを運営しているグリーン司法書士法人は、相続・債務整理について年間それぞれ1000件以上の問合せを頂いております(平成30年度)。
相談は無料で行っておりますので、こちらからお気軽にお問合せください。
以上が相続放棄のポイントです。
3か月という短い期間の割に、気を付けるべき点が多数あることがお分かりいただけたと思います。
不明点があれば、司法書士などの専門家に必ず相談しましょう。
相続放棄を相談・依頼する場合の司法書士の選び方をこちらの記事で解説していますので、ぜひ参考にしてください。
3-2 相続財産がプラスの場合は単純承認を検討しよう
相続したマイナスの財産よりもプラスの財産が多い場合は単純承認を検討しましょう。
相続を単純承認すると、プラスの財産も借金などのマイナスの財産もすべて引き継ぐことになります。
ちなみに、「単純承認」という手続きは存在しません。
相続を知った時から3か月以内に、相続放棄も、後に紹介する限定承認も行わなかった場合、自動的に単純承認をしたものとして扱われます。
ポイント① ~承継したマイナスの財産を支払えない場合は専門家に相談すべき~
プラスの財産のうち現金や預貯金が少なく、借金が支払えなくなることもあります。
このようなケースでは、不動産を売却したり、株式を換価したりして借金を支払うのが通常です。
しかし、プラスの財産に現在居住中の自宅しかなかったり、先祖代々から承継している土地しかなかったりすると、売却するわけにはいかないと思います。
そのような場合は、借金の分割・減額の交渉を行ったり、不動産を担保に借り入れを行ったりします。
ケースバイケースで難しい問題なので、司法書士や弁護士に相談するようにしましょう。
ポイント② ~単純承認が成立すると、相続放棄・限定承認の手続きができなくなる~
相続が発生したときには、相続人は、相続放棄・単純承認・限定承認の中から1つを選ぶこととなります。
よって、一度単純承認が成立すると、今後相続放棄や限定承認を選択することができなくなります。
3-3 相続財産のプラスマイナスがわからない場合は限定承認も選択肢の1つ
プラスの財産かマイナスの財産か、どちらが多いかわからない。
プラスの財産は受け取りたいが、後に莫大な借金の請求が来るリスクは背負いたくない。
こういったケースでは、限定承認の手続きを行うのも選択肢の1つです。
限定承認とは、下図のように、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を承継する制度です。
限定承認の手続をすれば、後に大きな借金が判明したとしても、相続したプラスの財産の金額だけしか責任を負いません。
例えば、相続したプラスの財産が1000万円である場合、後に4000万円の借金が判明したとしても、1000万円を支払えば、残りの3000万円の借金については支払う必要がありません。
しかし、一見メリットばかりのこの限定承認という制度は極めて複雑です。
この記事では、最低限のポイントだけお伝えします。詳細はこちらの記事で解説していますので、興味がある方はご一読のうえ、司法書士や弁護士への依頼を検討しましょう。
ポイント① ~限定承認の期限は3ヶ月と短い~
限定承認は、相続があったことを知ってから3か月以内に手続きをする必要があります。
ただし、相続放棄と同様に、期限を延ばす手続きも存在します。
ポイント② ~限定承認は相続人全員で手続きしなければならない~
限定承認は、相続人全員で手続きをすることが必要です。
つまり、相続人間で疎遠な人がいたり、不仲な人がいると、なかなか限定承認の手続きを行えないこともあるでしょう。
また、限定承認の期限を延ばす手続きを行う際は、相続人全員でその手続きを行うべきです。
なぜなら、限定承認の期限を過ぎた人は、法律上単純承認をしたものと扱われるため、相続人全員で限定承認をすることができなくなるからです。
4章 相続放棄の期限(3ヶ月)を過ぎて借金が発覚したら
この記事で、相続放棄の期限が3ヶ月であると説明してきましたが、実は相続を知ってから3ヶ月を過ぎても相続放棄ができるケースが多数あります。
・相続があったことを知ってから3ヶ月以上たってから借用書を見つけた
・督促状が届いて開けてみると、かなり前に死亡した家族の借金だった
・家族や親族からの連絡で借金があることを知ったが、既に相続があったことを知ったときから3ヶ月経過していた
という場合でも、あきらめず相続放棄を検討してみてください。
では、3ヶ月を過ぎても相続放棄できる3つのケースを確認していきましょう。
ケース① ~死亡から3ヶ月経過していても、死亡したことを知らなかった場合~
相続放棄の期限は3ヶ月と繰り返しお伝えしていますが、3ヶ月の起算点は相続があったときではなく、相続があったことを「知ったとき」です。
よって、死亡してから3ヶ月経過していても、死亡したことを知ってから3ヶ月以内であれば相続放棄をすることが可能です。
ケース② ~家族や親族が相続放棄をしたことによって借金が回ってきた場合~
先にお伝えしたように、もともと相続人でなかったとしても、家族や親族の相続放棄で借金が降りかかることがあります。
この場合は、①家族や親族の相続放棄によって自分自身が相続人となり、かつ②自分自身が相続人となったことを認識したときから、3ヶ月の期限がスタートします。
よってこのケースでは、死亡から3ヶ月が経過していても相続放棄が認められます。
ケース③ ~自分自身が相続人になったことを知ってから3ヶ月経過していたが、借金の存在を知らなかった場合~
自分自身が相続人になったことを知ってから3ヶ月経過していたとしても、故人に借金があることを知ってから3ヶ月以内であれば相続放棄が認められることがあります。
なぜなら、借金があることを知らずに手続をしなかった人に、相続放棄の機会を与えないのはあまりに酷だからです。
ただし、こういったケースで相続放棄が受理されるのは、原則的に、「故人に借金がないと信じており、かつ、そのように信じたことについて相当の理由があると認められる場合」です。
3ヶ月を超過して相続放棄をする事情を、裁判所に理論的に伝えなければなりませんので、必ず司法書士や弁護士に相談するようにしましょう。
ケース③に限らず、3ヶ月を過ぎて行う相続放棄は司法書士や弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
なぜなら、期限を過ぎて行う相続放棄は、通常の相続放棄と違って難易度が高いからです。
また、仮に相続放棄が認められなかった場合は、残念ながら借金を引継ぐことになります。
こういった場合は、自己破産や個人再生などの債務整理手続を検討しなければなりません。
専門家に相談・依頼すれば、万一裁判所に相続放棄が認められなかった場合でも、債務整理手続についても手助けしてもらえるのもメリットです。
相続に関する借金なので、相続・債務整理をともに得意にしている司法書士や弁護士に相談するようにしましょう。
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5章 相続放棄をあせって損しないために知っておくべき3つのポイント
3章・4章では借金を相続してしまった際の対処方法を紹介してきましたが、5章では借金を相続した際に損しないためのポイントをお伝えします。
日々相談業務を行っていると、払わなくて良い借金をおそれて相続放棄をしたために、プラスの財産を相続できなかった・・・という事例を耳にします。
長い記事になっていますが、損をしないためにももう少しお付き合い下さい。
5-1 借金が住宅ローンである場合はあわてて相続放棄しない
借金が住宅ローンである場合は、相続放棄をする前に慎重に調査をしなければなりません。
なぜなら、住宅ローンを借りる際には通常「団体信用生命保険(団信)」に加入するため、相続が発生すると住宅ローンの支払義務がなくなるからです。
住宅ローンの返済から免れるために相続放棄をしたら、実は住宅ローンの支払義務が団体信用生命保険によってなくなっていた、というケースはよくあるので、事前に保険会社や住宅ローンを組んだ金融機関に確認するようにしましょう。
5-2 借金と思ったら過払金ということもある
最近テレビCM、広告などで過払金が話題になっています。
過払金とは、利息制限法で定められた利率を上回る違法な利率で借金をした場合に、取り戻すことができる払いすぎた利息のことを指します。
お金を借りる人は、社会的には弱者であることが多いので、貸金業者やクレジット会社などがその弱みに付け込んで暴利を得ることを防ぐために、利息制限法という法律で利率の上限が定められているのです。
過払金が発生しているかどうかは、業者から取引履歴を取り寄せたうえで、利息制限法にしたがって計算しなければ判明しません。
なぜなら、業者は過払金が発生していても、そのことを親切に通知してくれないからです。
それどころか、過払金が発生していても、借金が残っているものとして督促をしてくることも頻繁にあります。
平成22年6月18日より前の契約に基づいて借金をしている場合、過払金が発生している可能性があります。
借金を放棄したと喜んでいたら、実は過払金を放棄してしまっていた。
というようなことにならないように、古い契約に基づく借金を見つけた場合は、相続放棄の前に司法書士や弁護士に相談するようにしましょう。
5-3 昔の借金は時効で支払わなくても良いことがある
時効とは、長年借金の支払を行わないことで、借金を帳消しにすることができる制度のことです。
具体的には、会社からの借金であれば5年間、個人からの借金であれば10年間支払をしないことで、時効の主張が可能です(もっと短い時間で時効を主張できる場合もありますが、紹介すると膨大な量になるので、今回は割愛します。)。
この時効という制度を利用すれば、相続したマイナスの財産だけを消滅させつつ、プラスの財産だけを受け取ることができます。
消滅させることができる借金を考慮して相続放棄をした結果、プラスの財産を承継できなくなってしまうということにならないように、借金が古いものである場合は時効を検討しましょう。
①過去に借金について裁判をされていた。
②債務承認書など、借金の存在を認める内容の書面を交わしていた。
③借金について、「支払います」「待ってください」と言うなど、借金の存在を認める発言をした。
借金の時効を狙うケースは、上記のような事情が存在するかどうかなど、専門知識が要求されます。
必ず事前に司法書士や弁護士に相談するか依頼するようにしましょう。
6章 借金を相続したら慌てず冷静に専門家を頼るのがベスト
今まででお伝えしてきたように、相続の借金問題には、注意すべき点がたくさんあります。
自分で作った借金ならまだしも、他人の借金で人生が狂わされるのは、非常にもったいないことです。
少しでも迷うことがあれば、必ず司法書士や弁護士に相談するようにしましょう。
そして、相続の借金問題を相談する際には、必ず相続と債務整理の両方に精通している専門家を選びましょう。
なぜなら、相続の借金問題には選択肢がたくさんあるため、得意にしていない専門家でなければベストな解決方法を導き出すことができないからです。
例えば、相続放棄の期限は法律上3ヶ月以内と定められていますが、相続に精通していない事務所であれば、3ヶ月を超過しても相続放棄が認められるケースがあることを知らない場合もあります。
相続・債務整理を専門に扱っている事務所であるかどうかは、下記を目安に判断しましょう。
・相続や債務整理の専門のHPを持っている
・HPに相続や債務整理の取扱件数が表示されている
・HPに手続について解説がなされている。
本サイトを運営しているグリーン司法書士法人は、相続・債務整理について年間それぞれ1000件以上の問合せを頂いております(平成30年度)。
相談は無料で行っておりますので、こちらからお気軽にお問合せください。
まとめ
以上が相続の借金問題の対処方法になります。
借金を家族に内緒にしたまま亡くなる人が多いので、相続の借金問題は急に起こるものです。
まだ相続が発生していない人は、そんなときに間違えて借金を背負うことがないよう、この記事を参考にしましょう。
そして、既に相続が発生している人はこの記事を読んで、ぜひ問題を解決してください。
長い記事になりましたが、皆様が相続の借金問題を解決できることを祈っております。