負担付贈与ってなに?
メリットやデメリットは?
税金はどうなるの?
このようにはじめて聞く「負担付贈与」は分からないことだらけですよね。
負担付贈与とは、何らかの負担と引き換えに物やお金をあげる契約です。
普通の贈与は「無償で物やお金をあげる」ことですが、負担付贈与は、何かを負担してもらうのと引き換えに物やお金をあげることです。
「ただであげる」のではなく「何かしてもらう代わりにあげる」と考えるとわかりやすいでしょう。
たとえば次のようなケースです。
「毎月〇万円を贈与する代わりに介護してもらう」
「自宅を贈与する代わりに住宅ローンを払ってもらう」
このように負担付贈与は一見便利な方法に思えますが、実務上はあまり利用されていません。
というのも、負担付贈与は多額の税金がかかったり、負担付贈与より柔軟に対応できる他の方法があるからです。
とはいえ、限られたケースにはなりますが、負担付贈与も相続対策や生前の財産管理に役立つこともあるので、正しく理解した上で検討することが何より大切です。
今回は負担付贈与の基本知識、税金面やメリット・デメリットなど、わかりやすく解説します。
目次
1章 負担付贈与とは
負担付贈与とは、何かの「義務」や「負担」と引き換えに物やお金を贈与することです。
「ただであげる」のではなく「何かしてもらう代わりにあげる」と考えるとわかりやすいでしょう。
負担付贈与は誰かに財産を渡すときに、無償にすると不安がある場合や何かしてほしいことがある場合に有効な方法と言えます。
また、負担付贈与では贈与財産から負担額を控除した金額に対して贈与税が課税されます。
1-1 負担付贈与の具体例
負担付贈与の具体例を確認してみましょう。
1.借金の肩代わり
自宅をあげる代わりに住宅ローン(債務)を肩代わりしてもらう。
2.療養看護
毎月〇〇万円(もしくは自宅)をあげる代わりに介護や看護をしてもらう。
3.ペットの面倒をみる
〇〇万円あげる代わりに飼い犬(ペット)の面倒をみてもらう。
4.財産を一定の目的で使わせる
自宅をあげる代わりに無償で〇〇年間住ませてもらう。車をあげる代わりに毎月〇回は使わせてもらう。
1-2 負担付贈与を行うときの注意点
負担付贈与を行うときには、次の2点に注意が必要です。
1-2-1 負担付贈与の契約を解除するときの注意点
負担付贈与を契約した後、解除するときは注意が必要です。
受贈者が負担や義務を実行する前 |
贈与者から一方的に解除できる |
受贈者が負担や義務を一部でも実行した後 |
贈与者から一方的に解除できない |
受贈者が負担や義務を実行しない |
贈与者から債務不履行を理由に解除できる |
贈与者と受贈者が合意すれば |
いつでも解除できる |
次の表のとおり状況によって解除できるケース、できないケースがあるので確認しましょう。
具体的に説明すると次のとおりです。
【受贈者が負担や義務を実行する前】
受贈者が負担や義務を実行する前であれば、贈与者から一方的に解除することができます。解除しても受贈者の損失や不利益はないので、一方的に解除することが認められているのです。
【受贈者が負担や義務を一部でも実行した後】
受贈者が負担や義務に一部でも着手した後に契約解除されると、受贈者に不利益が及んでしまうので解除できなくなります。たとえばペットのお世話を任せていたケースにおいて、受贈者がペットのお世話を始めてしまったら解除できません。
【受贈者が負担や義務を実行しない】
受贈者が約束通りに負担を実行しない場合、贈与者は「債務不履行」を理由にして解除できます。たとえば介護してもらう代わりに家を子どもに贈与したとき、子どもがきちんと介護をしてくれなかったら親は負担付贈与契約を解除して家を取り戻せます。
【贈与者と受贈者が合意すれば】
贈与者と受贈者の合意があれば、いつでも契約解除できます。
1-2-2 負担付贈与したものに不備があったときの注意点
負担付贈与で贈与した物に欠陥がある場合、贈与者に責任が発生する可能性があります。
たとえば、負担付贈与した不動産が構造的な欠陥住宅だった場合などです。
反面、通常の贈与の場合は、仮に贈与した物に欠陥があったとしても贈与者は責任を負いません。
通常の贈与契約では、法律により「目的物を特定したときの状態で引き渡せば足りる」とされているからです。(通常の贈与は「無償」なので、過度な責任は負わさないという趣旨です。)
ですので、欠陥があっても目的物をそのまま引き渡せば良いので、それ以上の責任を負うことはありません。
しかし、負担付贈与の場合、贈与者は「負担(義務)の限度」において責任を負います。すなわち負担や義務のレベルに応じて贈与者が受贈者へ責任を負うということです。
贈与された物に欠陥があれば受贈者は以下のような方法で贈与者に対し、責任追及できます。
- 対象物の修繕や不足分の追納を求める
- 負担付贈与契約を解除する
- 損害賠償請求する
負担付贈与の贈与者の責任は「負担を限度」とするので、負担や義務以上の損害賠償請求をされることはありません。たとえば「借金500万円を肩代わりする負担」だった場合には、損害賠償請求の上限は「500万円」となります。1,000万円の損害が発生したとしても請求額は500>万円が限度です。
2章 負担付贈与に関する税金
負担付贈与をすると「税金」が発生します。どういった税金がかかるのかみてみましょう。
また、贈与者、受贈者ごとに課税される税金は違うので、それぞれの立場において課税される可能性がある税金を確認してください。
2-1 贈与者に課される可能性がある税金
負担付贈与した贈与者(贈与した人)にかかる可能性のある税金は「譲渡所得税」と「住民税」です。
2-1-1 譲渡所得税
譲渡所得税とは「譲渡によって利益を得たとき」にかかる税金です。通常は売買などによって購入価格や諸経費より高額で売れたとき、利益部分に課税されます。
負担付贈与の場合「負担の評価額が贈与の評価額を上回るとき」に贈与者に利益があると考えられるので、譲渡所得税がかかります。
たとえば2,000万円の残ローンが残っている不動産(評価額1,000万円)について、残ローンを負担してもらうのと引換に負担付贈与したとしましょう。
この場合、贈与者は1,000万円分の利益を得るので、1,000万円に対して譲渡所得税がかかります。
譲渡所得税についての詳しい解説はこちら
2-1-2 住民税
譲渡所得税がかかると、それに対応して住民税も課税されます。
なお譲渡所得税や住民税は「負担が贈与額を上回るとき」にのみ発生します。「負担と贈与が同等」のケースや「贈与が負担より大きい場合」には発生しません。
2-2 受贈者に課される可能性がある税金
負担付贈与された受贈者(贈与された人)にかかる可能性のある税金は「贈与税」です。
2-2-1 贈与税
負担付贈与も「贈与」の一種なので、基本的には「贈与税」がかかります。ただし負担付贈与の場合、「贈与した物の評価額」から「負担額」を引いた金額が課税対象です。
たとえば3,000万円の不動産を贈与してもらうけれど2,000万円の残ローンを負担する場合には、1,000万円分のみに贈与税が課税されます。贈与額より負担額の方が大きい場合には贈与税がかかりません。
また贈与税には以下のような控除や減税制度があります。
1.基礎控除(暦年贈与)
1年に110万円までの贈与には贈与税がかかりません。
2.居住用財産の取得に関する特例
親や祖父母などの直系尊属が子どもや孫などの直系卑属へ居住用財産取得用の資金を贈与した場合、一定金額まで贈与税がかかりません。
3.配偶者控除
20年以上連れ添った配偶者間で居住用不動産やその購入・建築資金を贈与したときには2,000万円まで贈与税がかかりません。
4.相続時精算課税制度
親や祖父母などが子どもや孫などへ贈与するとき、2,500万円までの贈与税が無税となり、相続時まで課税が繰り延べられます。
このような控除や減税制度を適用できれば贈与税を払わなくて良い可能性があります。
また、不動産を贈与した場合には「不動産取得税」と「登録免許税」がかかります。これらの税金は負担の内容などに関わらず原則かかります。
これまで相続時精算課税制度を利用すると、毎年の贈与税の基礎控除額110万円は利用できませんでした。
しかし、2024年1月1日以降は相続時精算課税制度を選択した人にも毎年110万円の基礎控除額が与えられます。
相続時精算課税制度に基礎控除額が導入されたことにより、下記のメリットがあります。
- 毎年110万円以下の贈与であれば贈与税の申告および納税は不要
- 毎年110万円以下の贈与であれば贈与財産を相続税の加算対象に含めなくて良い
贈与者の年齢によっては毎年の基礎控除額を利用して贈与すれば、贈与税および相続税を大幅に節税できるでしょう。
制度改正により相続時精算課税制度を利用すべきかお悩みの人は、相続に精通した税理士に相談するのがおすすめです。
2-2-2 不動産取得税
不動産が贈与されたら、受贈者は不動産の評価額に応じて不動産取得税を払わねばなりません。
不動産の評価額に対して3~4%程度かかることになります。
たとえば評価額が2000万円の土地を贈与すれば60万円の不動産取得税がかかります。
(宅地の場合や居住用建物で一定の要件を満たせば適用できる減税制度はあります。)
2-2-3 登録免許税
不動産を贈与して不動産の名義を贈与者から受贈者へと書き換えるとき、不動産の評価額に応じて法務局へ「登録免許税」という税金を払わねばなりません。
登録免許税は不動産の評価額に対して2%かかります。
たとえば評価額が2000万円の土地を贈与すれば40万円の登録免許税がかかります。
この登録免許税は贈与者、受贈者どちらが負担してもよい税金ですが、一般的には受贈者が負担することが多いです。
これら不動産取得税や登録免許税は、不動産を贈与した場合のみに発生し、それ以外の現金や車などを贈与したケースではかかりません。
3章 負担付贈与のメリット・デメリット
本章では負担付贈与のメリット・デメリットを確認しましょう
【比較表】
メリット |
デメリット |
介護や借金の肩代わりなどの負担をしてもらえる |
約束通りに負担してくれないリスク |
負担してもらえない場合には解除して取り戻せる |
予想外の税金がかかる可能性がある |
お互いに了解して負担付贈与ができる |
贈与物に欠陥があるとトラブルになるリスク |
以下で負担付贈与のメリットとデメリットを比較していきましょう。
3-1 負担付贈与のメリット
3-1-1 介護や借金の肩代わりなどの負担をしてもらえる
通常の贈与を行うと、物を無償で与えるだけで相手に何かをお願いすることはできません。
負担付贈与なら「介護」「ペットの世話」「残ローンの負担」など、何かを引き換えにお願いすることができます。
一方的に財産を渡してしまうだけでは不安を感じるケースでは大きなメリットとなるでしょう。
残ローンの負担(借金の肩代わり)の代わりに不動産や車を贈与するケースにおいては、事前に銀行や信販会社の確認をとっておく必要があります。
なぜなら、お金を貸している銀行(信販会社)の事前承諾を得ていないと、勝手に贈与したことがローン契約違反になってローンの一括返済を求められることがあるからです。
また、実務上、このようなケースにおいて銀行や信販会社の承諾を得られる可能性は非常に低いと言えます。
3-1-2 負担してもらえない場合には解除して取り戻せる
負担付贈与の場合、相手が約束通りの義務を果たしてくれないときには契約を解除できます。万一の場合に財産を失わず、取り戻せるのはメリットとなるでしょう。
3-1-3 お互いに了解して負担付贈与ができる
相手に負担と引換に財産を移転する方法には「負担付遺贈」もあります。これは遺言書で特定の人に負担と引換に物を与える方法です。ただ負担付遺贈の場合、受遺者(遺贈を受けた人)が放棄してしまう可能性があり、放棄されたら義務は果たしてもらえません。また、負担付遺贈は遺言した人が死亡した時にはじめて効力が発生するので、負担や義務の発生は死亡時となります。
負担付贈与の場合には、贈与者と受贈者がお互いに納得して契約をするので、放棄される心配はありません。効力もすぐに発生するので、負担や義務を果たしてもらいやすいメリットがあります。
こちらの記事も参考にどうぞ
3-2 負担付贈与のデメリット
3-2-1 約束通りに負担してくれないリスク
負担付贈与契約をしても、相手が約束通りに負担や義務を果たしてくれるとは限りません。無視されて仕方なく解除せざるを得ない場合もあります。
物は返ってきても目的を実現できないのはデメリットと言えるでしょう。また、現金や不動産を渡してしまっているので、返還に応じてくれない場合は裁判などを起こさないといけない可能性もあります。
3-2-2 予想外の税金がかかるリスク
負担付贈与をすると、贈与者に譲渡所得税や住民税、受贈者に贈与税など予想外の税金が発生する可能性があります。
また、不動産を贈与した場合の名義変更にかかる登録免許税は「相続を理由に行う名義変更」のケースより高額です。相続の場合には不動産の評価額の0.4%の登録免許税ですが、贈与の場合には2%となります。
また、贈与の場合には、不動産の評価額の3~4%の不動産取得税がかかりますが、相続の場合、不動産取得税はかかりません。
3-2-3 贈与物に欠陥があるとトラブルになるリスク
贈与した物に欠陥があると、受贈者が修補請求や損害賠償請求を行ってトラブルになるリスクが発生します。贈与者は負担や義務の範囲で責任を負うことになるので、事前に生じうるリスクや損害額をシュミレーションしておくことが大切です。
3-3 メリット・デメリットをふまえて判断しよう
負担付贈与を行うときは、これらのメリット・デメリットをふまえて実行するかどうか判断する必要があります。
なぜなら、他の方法にした方が良いケースが多々あるからです。
たとえば、ペットの世話を負担にして現金を贈与するようなケースです。
このような場合は「家族信託」を利用した方が贈与者の希望にそえる可能性が高くなります。
他には残ローンの負担の代わりに自宅を贈与したいケースでは、銀行が応じてくれないケースもあります。
私は司法書士として、これまで数多くの負担付贈与の相談に乗ってきましたが、実行された負担付贈与はおよそ1割程度だと思います
本当にあなたにとって負担付贈与がベストな選択かどうか、ご自身で判断が難しい場合はぜひ一度ご相談ください。
4章 負担付贈与の契約書ひな型
負担付贈与は贈与者と受贈者で行う「契約」です。契約は口頭でも成立しますが、負担付贈与を行うときは、必ず契約書を作成するようにしましょう。
負担や義務が発生する受贈者にとっても、負担の代わりに財産を渡す贈与者にとっても契約した記録が書面で残っていれば安心です。
契約書に押す印鑑は認印でも良いですが、信用性をあげたいなら実印で押して、印鑑証明書を契約書と一緒に残しておきましょう。
最後に一般的なパターンの契約書を紹介いたします。
4-1 金銭債務を負担するパターン
まずは、自宅(不動産)もらう代わりに住宅ローン債務を負担するケースです。
※画像をクリックするとwordのひな形をダウンロードできます
4-2 療養看護をするパターン
負担が療養看護の場合、上記の4条を以下のようにします。
第4条(受贈者の負担)
乙は本件不動産の贈与を受ける負担として、甲に対し、甲の死亡時まで甲の指定する適切な方法により介護を継続します。
まとめ
負担付贈与とは、何かの「義務」や「負担」と引き換えに物やお金を贈与することです。
上手に活用すれば、相続対策や生前対策として利用することもできますが、予想外の税金がかかったり、リスク、注意点もあるので、事前に司法書士や弁護士、税金のことは税理士へ相談することをおススメいたします。特に不動産の負担付贈与を検討している場合、どのみち登記手続きをしなければならないので、事前に司法書士へ相談しておけば一石二鳥です。
弊社でも「負担付贈与に関する無料相談」を行っております。また、負担付贈与以外のベストな方法をご提案できる可能性もあるので、よければお気軽にご相談ください。
よくあるご質問
-
負担付贈与の例とは?
-
負担付贈与の例は、下記の通りです。
・自宅をあげるかわりに住宅ローンを肩代わりしてもらう
・毎月〇万円上あげるかわりに介護や看護をしてもらう
・〇万円あげるかわりにペットの面倒を見てもらう
・自宅をあげるかわりに無償で〇年住まわせてもらう
▶負担付贈与について詳しくはコチラ -
負担付贈与とは?
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負担付贈与とは、何かの「義務」や「負担」と引き換えに物やお金を贈与することです。
「ただであげる」のではなく「何かしてもらう代わりにあげる」と考えるとわかりやすいでしょう。
▶負担付贈与について詳しくはコチラ -
負担付贈与のデメリットとは?
-
負担付贈与のデメリットは、下記の通りです。
・約束通りに負担してくれないリスクがある
・予想外の税金がかかるリスクがある
・贈与物に欠陥があるとトラブルになるリスクがある
▶負担付贈与のデメリットについて詳しくはコチラ