
「遺言書の作成」と言っても、わからないことだらけではないでしょうか。
・どのような方法で作成するの?
・費用はどれくらいかかるの?
・注意しないといけないことは?
本記事ではこのような疑問にすべてお答えできるよう、遺言書の種類から作成手順や具体的な方法、作成時の注意点まで詳しく解説します。
遺言書を作成しておくことで、未然に防げる相続トラブルや軽減できる遺族の精神的・経済的負担があります。
亡くなった後、遺族に「遺言書を作成しておいてくれれば、こんなことにならなかったのに・・・。」と言われないためにも、本記事をご参考いただき遺言書を作成しておきましょう!
目次
1章 遺言書を作成する目的を明確にしておこう
遺言書を作成する目的は大きく3つです。
・財産を遺す人の意思を実現するため
・相続トラブルの発生を防止するため
・相続手続きを円滑に行うため
まずは上記3つの目的をふまえ、自分が遺言で何を実現したいかをはっきりさせておくことが非常に重要です。
なぜなら遺言書を作成する目的によって、遺言の内容や作り方が大きく変わってくるからです。
これを機に「遺言書を作成する目的」を明確にしておきましょう。
遺言書を作成する目的が明確でない方は、以下の記事で遺言書を作成する目的を確認してみてください。
2章 遺言書の作成方法を決めよう
遺言書を作成する目的が明確になれば、次に遺言書の作成方法を決める必要があります。
遺言書の作成方法は3種類あるので、それぞれの種類に応じたメリット・デメリットを知り、自分に合った遺言書の作成方法を選びましょう。
2-1 【メリット、デメリットで比較】遺言書の作成方法を決めよう
遺言書には以下の3種類があります。
公正証書遺言・・・公正証書として作成する
自筆証書遺言・・・すべて自分で作成する
秘密証書遺言・・・内容を秘密にしておきたい
それぞれの特徴やメリット・デメリットをまとめたものが次の表になります。
【3種類の遺言うち公正証書遺言が断然おすすめです。】
3種類ある遺言のうち、断然おすすめなのが公正証書遺言になります。
なぜなら、公正証書遺言は公証人が関与して作成するため間違いがなく、また、公証人役場で長期間保管してくれるので、紛失や破棄、改ざんされる恐れもありません。
さらに他の遺言と比べ、相続発生後に裁判所で検認手続きをする必要もありません。
デメリットとして費用がかかることが挙げれますが、5000万円程度の財産であれば10万円以内で作成できるので、内容の不備により遺言が無効になったり、紛失や破棄されるリスクを考えれば、公正証書で作成しておく価値は十分あると言えるでしょう。
3章 遺言書の作成方法
ここでは遺言書の作成方法について説明いたします。
(秘密証書遺言を作成する人は非常に少ないため本記事では省略させていただきます。)
3-1 公正証書遺言の作成方法
公正証書遺言は公証人の関与のもと、証人2名が立会い作成する遺言になります。
ここでは遺言書作成の流れから必要書類、かかる費用まで説明いたします。
3-1-1 公正証書遺言作成の流れと手順を確認しよう
公正証書遺言作成の流れは以下のとおりになります。
次に手順ごとに詳しく見ていきましょう。
【STEP① 自身の財産を把握する】
はじめに自身が所有する財産について、財産の種類、財産の額を把握することが大切です。
整理するために紙に書くなど、しっかりと財産を把握することを心掛けましょう。
【STEP②「何を、誰に、どのくらい」相続させるのかを決める】
財産が明確になれば「何を、誰に、どのくらい」相続させるのかを決めます。
- 何を・・・どの財産を
- 誰に・・・どの相続人(受遺者)へ
- どのくらい・・・どれくらいの割合で
遺言したい内容を整理して紙に書いておけば、公証人との打ち合わせもスムーズにいくでしょう。
【STEP③ 必要書類を準備する】
遺言の内容が決まれば次に公正証書遺言の作成に必要な書類を準備します。
【証人について】
公正証書遺言の作成するには証人2名を準備しなければなりません。
証人の準備方法は次の3つになります。
①ご自身で証人になってくれる人を探す。
②司法書士や弁護士などの専門家に依頼する。
③公証人役場で証人を準備してもらう。
なお、以下の人は証人になれないので注意しましょう。
・未成年者
・推定相続人や受遺者、配偶者、直系血族
・公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び雇人
証人について詳しく知りたい方はこちら
【STEP④ 最寄りの公証人役場を調べる】
公証人役場は全国に約300ヶ所あるので、最寄りの公証人役場を探しましょう。
【STEP⑤ 公証人と事前の打ち合わせをする】
いきなり公証人役場に行っても、その場で遺言書を作成することはできません。
事前に担当してくれる公証人と打ち合わせし、遺言書の案を作ってもらために必要な資料を提出しましょう。
公証人との主な打ち合わせは以下のとおりになります。
・遺言者について
・相続人について
・遺言の内容
・証人の準備について
・遺言作成の日時、場所
遺言書の作成場所は原則「公証人役場」になりますが、体調不良や歩行困難などの理由があれば、ご自宅や病院へ公証人が出張してくれます。
次に公正証書作成の手数料について説明いたします。
公正証書を作成する際には、公証人へ手数料を支払う必要があります。
手数料の金額は一律でなく、財産の額、遺言の内容、公証人の出張の有無によって変動します。
手数料の計算方法は法律で定められていますが、計算方法は複雑なので公証人に見積してもらいましょう。
公証人手数料の目安は以下のとおりになります。
(公証人役場で作成する場合)
財産額が1億円以下の場合は3万円~8万円程度
(公証人に出張してもらい作成する場合)
財産額が1億円以下の場合は8万円~15万円程度
この手数料は遺言の作成当日に現金で支払うことになります。
その他、作成費用についてさらに詳しく知りたい方はこちら
【STEP⑥ 遺言書を作成する】
いよいよ本番です。当日の流れは次のとおりになります。
【作成当日の流れ】
①公証人が遺言者、証人の本人確認をおこなう
②公証人が遺言書の原案を読み上げる
③遺言者、証人が遺言内容を確認する
④遺言者、証人、公証人が遺言書原本に署名押印する
⑤遺言書の正本、謄本の交付を受ける
⑥公証人手数料を支払う
以上で、公正証書遺言の作成は完了です。
最後に一点だけ注意していただきたいことがあります。
それは「公証人は相続対策や相続トラブル防止の提案・アドバイスはしてくれない。」ということです。
公証人は遺言者の希望するとおりの遺言書を作成してくれますが「相続対策の提案」や「トラブル防止のためのアドバイス」は原則してくれません。
「相続対策」や「相続トラブルの防止」のための提案やアドバイスを受けたうえで、遺言の内容は決めたい人は事前に司法書士や弁護士などの専門家に相談しておくことをおすすめします。
3-2 自筆証書遺言の作成方法
自筆証書遺言はその名の通り、自身で書いて遺言を残します。
遺言書の本文については必ず自筆(手書き)で日付氏名も自筆して押印をしなければなりません。
しかし、財産目録(遺産の明細)については自筆ではなくて下記の3つの方法で作成する事が可能です。
財産目録の3つの作成方法
① パソコン等ワープロで打った財産目録の作成
② 不動産に関しては登記事項証明書を添付
③ 預貯金については通帳のコピーを添付
自筆証書遺言の作成をイメージした図を下記に記載します。
このように自筆証書遺言はきちんとルールどおりに自分で作成すれば、費用もかからないため最も手軽な遺言方法と言えます。
3-2-1 自筆証書遺言の記入例を確認しよう
まずはケースに応じた記入例を見てみましょう。
なお、自筆証書遺言に決まった書式はないため、法律で決まっている自署などの作成方法を守り、「何を、誰に、どのくらい」相続させるのかを意識して書いていくことが大切になります。
【サンプル①】相続人のうち1名に全ての財産を相続させたい場合
【サンプル②】相続させたい財産や相続割合を指定しておきたい場合
【サンプル③】法定相続人でない人にも一部相続させたい場合
次に遺言作成の流れやポイントについて、もう少し詳しく説明していきたいと思います。
3-2-2 自筆証書遺言作成の流れとポイントを確認しよう
まずは自筆証書遺言作成の流れを確認しましょう。
次に各手順ごとに注意しておきたいポイントを説明させていただきます。
【STEP① 自身が所有している財産を把握する】
はじめに自身が所有する財産について、財産の種類、財産の額を把握することが大切です。
紙に書き出すなどして、漏れなく財産を把握することを心掛けましょう。
【STEP② 財産を特定できる資料を準備する】
遺言書には財産特定のため正確な情報を記しておく必要があるので資料を準備しましょう。
財産の記載が不明瞭なことが原因で、相続人の間で紛争に発展してしまえば元も子もないので、不動産であれば「登記簿謄本」、預貯金なら「銀行名、支店名、口座番号」をもとに財産の特定を行います。
なお、記載されている内容から財産が特定できない場合、法務局や銀行が名義変更に応じてくれない可能性もあるので注意が必要です。
【STEP③「何を、誰に、どのくらい」相続させるのかを決める】
相続させる財産が明確になれば「何を、誰に、どのくらい」相続させるのかを決めます。
何を・・・どの財産を
誰に・・・どの相続人(受遺者)へ
どのくらい・・・どれくらいの割合で
【ポイント:遺言執行者は決めておくべし!】
相続人が円滑に相続手続きを行うことができるように、遺言執行者を決めておくことをおすすめします。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現させるために必要な手続きを行う人です。
遺言執行者を定めておくことで、預貯金などの口座数が多い場合や、相続人以外の人に財産を承継してさせる遺贈の場合に相続手続きがスムーズに行えることになります。
この遺言執行者は財産を受け取る人の中から選ぶか、弁護士や司法書士へ依頼することもできます。
法的な手続きに自信のない方や、中立的な第三者に手続きを任せたい方は専門家へ事前に相談してみましょう。
【STEP④ 遺言を書く】
遺言を書くにあたって「守っておきたいこと」「注意したいこと」「アドバイス」は以下のとおりになります。
【遺言を書くときに守っておきたいこと】
- 「全文、日付、氏名」をすべて手書きする
- 署名、押印をする
【遺言を書くときに注意したいこと】
- 日付だけでなく、年月日を書く
- 誰が見てもわかる明瞭な字体で書く
- 財産の特定は資料に基づいて正確に書く
- 氏名に略称を使わず、戸籍に記されている正確な漢字を使う
【作成方法についてのアドバイス】
- 耐久性のある丈夫な紙を用意する
- 消せない油性のペンなどで書く
- シャチハタは使わず、できれば実印で押印する
- 遺言書が複数枚にわたるときは、ホッチキスで合綴し割印する
なお、間違えて書いてしまった場合の修正は、法律で決まっている厳格な方法で行う必要があります。
法律で決められた方法で修正できていないと無効になる可能性もあるため、できれば一から書き直すことをおすすめいたします。
【相続法の改正により自筆証書遺言を自分で保管しなくて良くなる!】
相続法の改正により2020年7月10日から、自筆証書遺言を法務局で保管してくれる制度がスタートします。
従来「自筆証書遺言」は自ら保管しなければならないため、災害や不注意により滅失・紛失したり、隠匿や改ざんされる恐れもありましたが、相続法の改正により、自筆証書遺言を法務局で保管してもらうことで、そのようなリスクを回避することが可能になります。
また、法務局で保管している自筆証書遺言については、偽造、変造等のリスクがないため、家庭裁判所での遺言検認の手続きが不要になりました。
詳しくは相続法改正について、詳しく書いている以下の記事でご確認ください。
【STEP⑤ 遺言書を封筒に入れて封印する】
遺言書を封筒に入れること、封印することは法律で決めれられた要件ではないですが、変造や改ざん防止のため、封筒に入れて封印しておくことをおすすめします。
また、「誰が書いた遺言書か」を明確にしておくため封筒には次のように書いておきましょう。
4章 専門家の選び方とかかる費用
本章では、専門家へ依頼するメリット・デメリットや専門家の選び方やかかる費用まで説明したいと思います。
4-1 専門家へ依頼するメリット・デメリットとかかる費用
遺言書の作成を専門家へ依頼する5つのメリットは次のとおりです。
- 相続対策、相続トラブル防止などについて、適切なアドバイスをしてくれる。
- 遺言者の希望や事情を汲み取り、ベストな遺言案を提示してくれる。
- 遺言者が亡くなった後、相続人が引き続き事情を知っている専門家へ相談できる。
- 煩雑な公証人役場との打ち合わせを代行してくれる。(公正証書遺言の場合)
- 司法書士や弁護士が証人になってくれる。(公正証書遺言の場合)
デメリットとしては「費用がかかること」ということになるでしょう。
【専門家に依頼する費用】
弁護士や司法書士など業種によって費用が増減するというよりは、財産額や遺言の内容、遺言書の保管など付帯するサービスによって増減する傾向にあります。公正証書遺言の作成を依頼した場合の目安としては10万円から20万円程度の費用になることが多いでしょう。
4-2 専門家の選び方
遺言書作成の相談先として、一般的に弁護士、司法書士、行政書士などの専門家が挙げられますが、
どの専門家へ相談したら良いという答えはありません。
なぜなら、弁護士や司法書士の資格を持っているからといって、「相続・遺言の実務に精通」しているとは限らないからです。
ひとつの参考として、こちらの記事をご覧ください。
ポイント:あなたにとってベストな遺言を作成するには、相続に関する知識および実務経験が豊富な専門家に依頼することが一番に重要になります。
【相続遺言の専門家をインターネットで探すときの4つのチェックポイント】
- 相続や遺言の専門のホームページがある。
- ホームページに遺産整理や成年後見など、相続に関する幅広い情報が記載されている。
- HPに相続や遺言の取扱件数が表示されている。
- 相続に関するセミナーを頻繁に開催している。
ちなみに当メディアを運営している「グリーン司法書士法人」は、積極的に遺言書作成のサポートを行っております。無料相談はこちら
5章 遺言書を作成するときに押さえておきたい3つのポイント
遺言書を作成するときに押さえておきたいポイントは次の3つです。
- 家族に遺言書を作成したこと、遺言書の保管場所を伝える。
- 遺留分について検討しておく。
- 財産内容を詳細に書いておく。
それでは各項目について詳しく確認していきましょう。
5-1 家族に遺言書を作成したこと、遺言書の保管場所を伝える
せっかく遺言書を作成しても死後に遺言書が発見されなかったり、紛失してしまったりすると遺言書を作成した意味がありません。
できれば遺言書を作成したことと、遺言書の保管場所を家族に伝えておきましょう。
公正証書で作成している場合は、最低限「公正証書遺言を作成したことだけ」伝えておけば、相続人からの請求により遺言書を再発行してくれるので安心です。(本人が死亡した後しか、相続人からの再発行請求は受け付けてもらえません。)
どうしても伝えたくない場合は、死後に発見されないリスクを軽減するため、家族が見つけやすい場所に保管しておいてください。
なお、自筆証書遺言の場合は紛失、盗難、破棄されてしまわないよう保管場所には注意しましょう。
(その点、公正証書遺言の場合は紛失、盗難、破棄してしまったとしても、再発行してくれるので安心です。)
5-2 遺留分について検討しておく
遺言を書いておく際には「遺留分」を検討しておく必要があります。
遺留分とは、法定相続人が最低限の財産を承継できる権利を保証する制度です。
例えば、亡くなった人が「長男にすべての財産を相続させる。」と遺言を書いていた場合、遺言の内容のとおり財産はすべて長男が相続することになりますが、残された他の子供が「おなじ子供なのに長男一人が相続するのはおかしい!」と言い出すことがあります。
このような状態を「遺留分を侵害されている」と表現します。
遺留分が原因で相続トラブルになると、双方が弁護士を雇うことになったり、裁判に数年間かかることもあります。
遺留分に配慮した遺言書を作成することで、相続トラブルに発展して余計な費用や時間がかかるなどのリスクを軽減することができます。
ただし、事情によっては遺留分を侵害する内容の遺言を書かざるを得ないこともあるので、そのときは遺留分を請求されることに備えて、遺言の内容をアレンジしたり、遺留分を請求されたときにスムーズに支払えるよう資金の準備をしておくなど準備が必要です。
詳しい準備や対策についてはこちらの記事をご覧ください。
相続に詳しい司法書士や弁護士などに事前に相談しておくことをおススメします。
5-3 財産内容はできるだけ詳細に書いておく。
あなたが亡くなった後、相続する人は遺言書を使って預貯金や証券口座、不動産の名義変更を行う必要があります。
財産内容の詳細がわからないと相続手続きの際に漏れてしまったり、財産の在処を調査するのにすごく時間がかかります。
相続する人が漏れなく、スムーズに手続きできるよう預金口座や不動産の所在は明確にしておきましょう。
まとめ
遺言書を作成するまでの大枠の流れをまとめると以下のとおりになります。
- 遺言書を作成する目的を明確にする。
- 3種類ある遺言の作成方法のうち、自身に合った作成方法を選ぶ。
- 選んだ作成方法で遺言書を作成する。
遺言書を作成しておくことで、未然に防げる相続トラブル、あるいは軽減できる精神的・金銭的負担があります。
本記事を契機に遺言書作成への一歩を踏み出していただければ幸いです。